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『なぜか惹かれる ふしぎな数学』 はしがき



  世の中には不思議があふれている. 不思議という言葉には,神秘とか謎とか驚きとか超常のとかいう言葉と結び付けられた,普通でないことというイメージがある. センス・オブ・ワンダーと言えば,何か浮き立つような楽しさがあるし,暖かさも感じられるかもしれない.

  一方で数学には,難しくて分からないということはあっても,絶対確実なものというイメージがあるだろう. そして,何か冷たく,近寄りがたささえ感じられるかもしれない. それでも,分かっている人には分かっているはずだという安心感,どこかには分かっている人がいるという信頼もあるだろう.

  さて,その相反するような2つのものが結びついた「不思議な数学」という名称に,ちょっとした珍しさはあっても,それほどの違和感がないのはなぜだろうか.

  数学や哲学は,人が感じる「不思議」を解き明かすための営みである. 神や仏に仮託せず,解き明かされたと感じる不思議が増えていくことが文明の進歩であり,人間性の勝利であるとも言える. だから,「不思議」と「数学」は意外と相性がいい.

  数学を意味するmathematicsという英語の語源はギリシャ語の「マンタノー」という動詞であり,それは「学ぶ」ということである. 数学というものは「学ぶべきもの」のすべてであり,「学ばねばならないもの」でもあって,つまり,自然に身に備わったものではないが,学ぶことができ,学べば分かることを意味しているのである.

  だから,数学がどんなに難しそうに見えても努力すればわかることだと,誰もが心の中では思っている. 難問を見て,考えても分からないという気分がするのは,考えるまでに積み上げるべきことのせいで,問題そのものが考えられる段階にないからにすぎない.

  扱うのに積み上げがあまりいらない問題もたくさんある. そんな不思議問題を集めてみた. 積み上げが問題に届いている人は解答を読まずに立ち止まって考えてみてほしい. まだだなと感じたら,この本でちょっと学んで,積み上げを増やしておこう.これまで不思議だった多くの問題のステージにも届くようになるかもしれない.

  学校でのように点数がつくわけではないから,気楽に楽しんでほしい. 分からなければほっといて,しばらくして戻ってみればいい. いつかできるようになっているはず. それまでの,考えればわかるはずの分からないことがあるという頭の中のムズムズした感じ,それがあなたの頭脳の成長の可能性なのだから.


  2013年師走

蟹江 幸博



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