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あなたの頭,ほぐれてますか?
三重大学一般教育通信No.19 (2002.12.2), p.4.
大学生になって最初に思うことが,もう数学の勉強をしなくてよいということであるという学生が多いらしい.
学生の話を聞くと,数学のような暗記物は嫌いだとか,数学なんかやってると頭が固くなると思っているようだ.
数学なんか,答も決まっていて,想像性がなくて,非人間的だとも思うようだ.
大学の共通教育で数学を教えている理由は,基礎科目で理科系諸科学の基礎(学問的内容を表現する言葉)を提供する以外では,実は学生の発想を柔軟にし,視野を広くし,漠然とした状況からはっきりした問題を取り出すことのできる鋭さと深さを養うためなのだ.
数学は,答どころか問題点すらも明確でない状況の中で,議論可能な形の問題を取り出す技術でもある.
解き方を暗記してどう使うかだけを問題にするのは,実はもはや数学ではなく,あえて名前をつければ応用数学なのだ.
それも,使い方がわかってしまえば,学問ではなく,単なる技術習得に過ぎない.
当たり前なのだが,残念なことに,ある程度の技術を習得した上でなければ,鑑賞することも楽しむことも,増してや発展させることも覚束ない.
古典落語の例で言うなら,江戸時代の社会背景をある程度説明しなければ,笑ってもらえないようなものだ.
だから,落語も古典ならそういう知識を枕に振る.
「数学の話題から」のような講義ではその枕を振っているのである.
だが,その背景説明の間にも,既に数学アレルギーからの拒否反応が起こる.
また本質的に,枕は本編のためにある.
枕だけで時間が掛かると,面白さは湧いてこない.
教える側から言えば,これが実に難しい.
学ぶ側から言えば,見通しが分からなければ辛抱するのが辛いだろう.
自分なりの目的を考えてみて欲しい.大学で学ぶことの意義である.今はまだ分からなくとも,それを求めて行けば退屈に見える講義がもしかすると輝いて見えて来るかもしれない.