Preface to SPED TERRA (Proffessional English-Japanese Dictionary)Shogakukan MyBookホーム『SPED TERRA』のホーム.


『SPED TERRA』 編者まえがき



 こういう辞書を待っていた.そう思わせる辞書である. あるといいなと思っても作れないだろうと思うような辞書である. 多くの辞書を作り続けてきた小学館にとっても,これは画期的で野心的で,英断といえるだろう. 日本人のほんとうの英語力を向上させるためには,どうしても作られねばならない辞書であった.
 かって,日本の英語教育の弊として,読解力はあっても会話力がないと言われ続けてきた. 近年の語学教育の改革はそれを正すべく,小学校からの英語教育をはじめ,会話することに重点を移してきた. 読解力の養成が軽視された結果,いわば大人の会話のできないような会話力しか身につかない教育になりがちである. 英語を共通語として話す地域に住むのならそれは必要だが,もしもそうなら自然に身につく能力でもある.
 世界が狭くなったとはいえ,日本はやはり島国であり,日常的な外国人との接触は多くない. 外国人とコミュニケーションをとるという状況では一定程度の,できるならそれぞれの国での大学初年級程度の共通常識を踏まえた会話になることが多いし,互いにそれを期待してしまう. そして,それを満たしてくれる英語教育の場は,ないといっていいほど少ない.
 高等教育機関である大学での英語教育は,ややもすると英文学的な指向を見せる. しかし,数学であれ,物理であれ,化学であれ,コンピュータ・サイエンスであれ工学であれ,日進月歩の発展を続けており,研究成果が日本語に翻訳されるのを待っていては,世界に後れを取ってしまう. 訳されないまま,必要な概念や技術として定着するものも少なくない. それに対して,分野ごとの専門の事典はあるが,記述が難しく,内容を理解しているものにしか分からぬこともある. 新しい学問は境界領域に生まれ,学際的な知識が求められる. そのとき,専門用語の英語の意味が分からないと,隣接分野を学ぼうとする意欲を阻むことになる.
 この辞書の役割は,大学に入って学問世界に足を踏み入れようとする人,隣接領域の知識を得たいと思う人,以前学んだ分野の現況を把握したいと思う人,そういう人たちの前に立ちはだかる言葉の障壁を取り除くことである.
 知りたい言葉が分かっている場合は,英語力があればインターネットで容易に調べることができる時代になった. しかし,インターネットにない辞書の良さがある.一覧性ということである. 検索した言葉の近くに,知っている筈の言葉の未知の意味と用法があり,知らないことが並んでいる. この辞書はまた,読んでも楽しくできている. どこでもいいからページを開いてみて欲しい.1つの言葉が,色々な分野で,共通の意味で使われていたり,全く異なる意味で使われている. 知らず知らずに,現在の科学の姿とレベルが体感されていくだろう.
 専門書を読むために,また専門の事典を読むために,必ずこの辞書は役に立つ. 多くの分野の多くの研究者の個別の努力の集積であって,その融合として完璧なものになっているとはいえないが,今後とも利用者の声を反映して,より適切な辞書とするように努力していきたい

2004年6月

編者



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