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『黄金分割』 ドイツ語初版の著者まえがき


 黄金分割は,古代からさまざまな場面に登場しています. たとえば,幾何学,建築,音楽,美術,また哲学のなかにも出てきます. 一方,工学やフラクタルという新しい分野にも登場します. 黄金分割は,ほかから孤立した現象ではなく,ある共通の考え方が一般化されていくという過程の中で,最初のそしてもっとも簡単な例になっていることが多いのです.
  この本の目的の一つは,黄金分割が現れる例を述べることです. もう一つは,そうした考え方の発展を明らかにすることです. 黄金分割は,一般化の過程の中でもっとも簡単な例になっていることで,教育的な意義も大きいのです. 教育という場面では,明らかではないなかで,もっとも簡単な場合がとり上げられるものですから.
  第2章ではフラクタルの構成を取り上げますが, そこでも,黄金分割はもっとも簡単な例になっています. その後の章では, 黄金幾何,黄金比で折ったり切ったりすること,黄金数列,黄金正多面体,黄金準正多面体がテーマになっています.
  読者層としては,学生,学者,数学教師,関心のあるアマチュアを想定しています. またそれぞれの章は,独立に読むことができる構成にしてあります. 読者には,手を動かして,幾何的な作業や代数的な計算をしていただきたいのですが,創作的手芸(折り紙や模型作りなど)の面でも,コツや手順のヒントが得られるようになっています.
  黄金分割は概念的にも豊かで,いろいろ分野でよい例を作り出す力があります. そこで,本文ではあまり触れていない分野の文献をいくつか引用しておきました. 建築や美術的な面では [Ghy] や [Hag] があり, [Hun] は数学の美学的な側面をとりあげています. 最後に,[B/P]や[Tim]は黄金分割に関する間口の広い入門書になっています.
 同僚の教師からは多くの例と示唆を頂きました. H.L.モーザーは沢山の演習問題を教えてくれましたし,R.シュプリは原稿を詳しく読んで批評してくれました.とくに,この2人には心から感謝しています. この本の出版にあたって, ライプツィヒのB.G.Teubner出版のJ.ヴァイス氏から受けた思いやりに感謝します.

 フラウエンフェルト, 1993 年 2 月

ハンス・ヴァルサー



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ドイツ語第2版のまえがき

 第2版では読者の要望に応えて1つの章を追加しました. その章に, テキスト のあちこちに散らばっていた問題を集め, 簡潔な解答を与えておきました.

    フラウエンフェルト, 1996 年 2 月

ハンス・ヴァルサー

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英語版のまえがき

 このシリーズ1 で以前に出版したハンス・ヴァルサーの『対称性』(Symmetrie)のときと同じように,出来るだけドイツ語原文に忠実に英訳したが, そのため英語を話す読者には不幸なことになったと言える. 主として,引用文献がドイツ語のままになったということである. 引用文献は引用される場所に特有なもので,別のものに替えられないのが普通である. しかし,その文献の英語版がもし存在すればそれを引用することにし,英語の文献も少し追加することにした. このために読者が深刻に悩むことは起こらないだろうと思う. この本の文献は,実際上,読み終わった後で読むためのものだからである. ヴァルサーのこの本は非常に自己充足的で,予備知識は必要がない.
  さらに,このモノグラフはある特定の幾何学的分野を網羅するような教科書なわけではない. 著者自身まえがきで言っているように,この本の目的は黄金分割の記述と,数学の多くの分野や私たちの文明の中での現れ方を示すことである. この意味ではとくに,黄金分割とフラクタルの現代的理論との関連性はこの本の重要な特徴になっている.
  ここで,我々が原文に加えた2つの修正点を示しておかなければならない. 一番重要なことは,読みやすさを考えて,章,節,小節に番号を付け, テキストの中に散在していた問題(最後の章)に著者が解答を与えているものにも通し番号を付けたことである. 著者が解答を与えて{\bf いない}ところでは,(番号を付けずに)問題とし,解答は与えないでおいた. 実際,そのような問題の解答は,ほとんどの場合,問題を提示した直後の本文の中に含まれている.
  2つ目は短い余分の節(第4章\S 4)を付け加えて,DIN A4紙の性質をアメリカの読者に説明したことである. 「A4紙」はメートル法が使われている所では馴染みのある言葉で,`DIN' は単にドイツ規格であることを意味しているだけである.
  また,英語版がドイツ語からの翻訳であることをあまり感じさせないように,文章を少し変更した.
  (またもやだが!)喜んで,本翻訳書の原稿を作る際の,同僚であるジーン・ペデルセンの貴重でそして高度に効果的な協力に感謝し,そして翻訳文を注意深くかつ批判的に熟読してくれた同僚のジェリー・アレクサンダーソンに感謝の気持ちを表わしたい. 最後に,本翻訳の最終版への,同僚のルドルフ・フリッチとジョン・ホールヅワースの非常に貴重(で迅速!)な貢献にも感謝できるのは幸せなことである.

 ビンガムトン  2001年5月

ピーター・ヒルトン



1:[訳註]このシリーズとはMAA(アメリカ数学協会)が発行しているスペクトル・シリーズである.同じ著者の同じ訳者による《Symmetry》という英訳がその中にある. このシリーズでは数学や数学に関する興味深い読み物,また絶版になった良書の再版や翻訳も出版されている.数学の多面性を広く多くの読者に伝えようという強い意志が感じられるシリーズである.
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日本語版への原著者のノート

 嬉しいことに,黄金分割に関する私の本が日本語でも読めるようになりました. 興味を持っていただけば,読者の方にはものを見抜く力がつくでしょうし,きっと喜んでもいただけるでしょう.
  蟹江先生がこの本を日本語にするためにしてくださった入念なお仕事には,感謝の気持ちで一杯です. またこの機会に,日本語版の出版のために尽力された村上隆子さん(The English Agency)と日本評論社にも有り難うと申し上げたいと思います.

フラウエンフェルト 2002年6月

ハンス・ヴァルサー



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