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『空間図形の規則性を見つける力』\\  を豊かにする面白問題
特集/「発想力」を豊かにする問題コレクション,数学教育,2011年8月号, No.646,明治図書, pp.20--23.


 空間図形は平面図形に比べて,かなり難しい.もっとも,平面図形でも易しくはない.多角形以外で考えることができるのは円だけだということから,作図というのは定木とコンパスだけを使って描くことになっている.古代ギリシャでもアポロニウスには,円より複雑な楕円や双曲線を扱う理論がある. しかし,それは円錐という空間図形を詳しく調べることによって始めて分かることで易しくはない.
  空間図形は,平面図形と違って,見たままのものではない. つまり,見かけでは見えない,裏側というものがある. だから,何らかの規則性を仮定しなければ,図形を認識することすら難しい.
 ここでは難しい図形を考えることはせず,多角形の空間版である多面体だけを考えることにしよう. 多角形でもそうであるが,内部の点はどれも同じようなものなので,それ自体を考えるというより,その境界の図形を考えることで,図形を特徴づけることになる.
 多角形は閉じた折れ線で囲まれた図形のことで, 例えば,三角形は3つの辺を持ち,四角形は4つの辺を持つ. 辺と辺の継ぎ目は点であり,それを頂点と言う.頂点での2辺の結合の仕方が,開き方を指定する角で表される.三角形の内角の和は180°であるというのは,驚異的な規則性だということが分かるだろうか?  もう1つ,辺の数と頂点の数が等しいというのも,多角形ならではの驚異的な規則性である.
 さて,多角形の空間版である多面体にそのように単純な規則性があるだろうか?  多面体も,境界の図形によって特徴づけられることになる.しか し,境界の図形はいくつかの面と呼ばれる多角形であり,その多角形の継ぎ目は今度は線分になり,辺または稜と呼ばれる.稜と稜の継ぎ目の点は頂点と呼ばれるが,頂点には常に3つ以上の稜が集まってくる.

 何故だろう?(問題1)  このとき,ある頂点に集まってくる稜の数と面の数は同じである(問題1').[ヒント]その頂点を中心とする半径の小さい球面を考える.

 多面体という場合には,1つの稜(線分)を共有する面は2つであるという制限が付く.

 何故だろう?(問題2) [ヒント]3つ以上だと何が困るかを考える.

 このこと以上に何か分かるだろうか? 図形の話をする時,名前がないととても困る.平面の多角形のとき,三角形なら,二等辺三角形,直角三角形,正三角形という名前のものがある.四角形なら,正四角形(正方形),長方形,菱形,平行四辺形,台形,凧形など,何かしらの条件を満たすものがある.n≦5のときのn角形には正n角形以外にこれと言った名前がない. 辺の種類は線分という1つのものしかないので,辺の数が最大の特徴になる.n角形の内角の和は (n-2)×180°であるというのが一般的に言えるほとんど唯一のことである.
 多面体のときはどうだろうか.面の種類は無限にある.どんな多角形でも,ある多面体の面になることができる.(問題3:例を挙げて示せ).

 多面体の種類は多すぎるようである.まず,正多角形に対応するものを考えてみよう.その正多角形は,辺の長さがすべて同じで,角がすべて同じであるということで定義される.辺の数 nと,長さlという2つの数を決めると,正多角形は一意的に決まってしまう. (問題4:正n角形の頂角と面積を,nとlで表せ.)

 正多面体はどう定義すべきだろうか? 境界図形の最大の要素である面がすべて合同であるとしてもよいだろうか? それほど事情は単純ではない.知られている正多面体の定義はもっと条件が強く, 面がすべて合同な正多角形で,各頂点での立体角と各稜での面角がすべて等しいものと定義されていて,実は,2000年以上前のプラトンの時代から,正多面体はたった5種類しかないことが知られている.
 種類というのは,辺の長さを決めさえすれば,合同なものは1つしかないという意味である.立体角や面角の定義をするのは難しくはないが,頂点を中心とする小さい球や稜を中心とする小さい円柱(管状近傍)を考えて,立体としての構造を考えることになる.
 正三角形を面とする,正四面体,正八面体,正二十面体と,正方形を面とする正六面体(立方体)と,正五角形を面とする正十二面体である. これらに対して,面の数をF,稜の数をE,頂点の数をVとすると,F-E+V=2が成り立つ. (問題5:正多面体,n角柱,n角錐,n角錐台などでこの等式を確認せよ).

 凸な多面体に対してはこの等式が成り立つ(オイラーの多面体定理)が,凸でない多面体では必ずしも成り立たない(問題6:実例を示せ.[ヒント]直方体の豆腐に,正方形柱の穴を空けて出来る立体では右辺が0になる).

 簡単な図形から少しずつ複雑な図形を作ってみよう.まず,平面図形のときに考える. 辺の長さが同じ正n角形を考える.正三角形の1辺を正方形の1辺にくっつけると,すべての辺の長さが等しい五角形ができるが,正五角形ではない.では,次の問題を考えてみよう.

 (問題7: 3≦ k ≦ nに対し,正k角形の1辺を正n角形に1辺に重ねると,何角形になるか? 凸多角形になるのはどういう(k,n)のときか?)

 まず一般には,辺の数を数えると,2つの辺が重なって,多角形の内部に消えてしまい,境界ではなくなるので,n+k-2角形になる. (k,n)=(3,3)のときは,n+k-2=3+3-2=4で4角形だが,辺がすべて等しいので菱形になる.

 凸になるかどうかは,くっつける辺の端点に集まる角を見ればよいので,正n角形の内角が (n-2)/n × 2∠Rであることから,((k-2)/k+(n-2)/n)× 2∠R< 2∠R, つまりnk-2k-2n<0が凸であるための条件になる. この不等式は(k-2)(n-2)<4と書きかえられ,(k,n)=(3,3), (3,4), (3,5)が答である.
 何かおかしな感じがする.確かに(k-2)(n-2)>4のときは,その点での内角が2∠Rを越えるので,凸でないn+k-2角形になっている.
 では(k-2)(n-2)=4のときはどうなるだろうか? これを満たす3≦k≦nの解は,(k,n)=(3,6), (4,4)だけである. (k,n)=(4,4)のときは,正方形を2つくっつけて,長方形ができる. 4+4-2=6の6角形ではなく,4角形になっている.2つの線分が折れ線ではなく,1本の線分になっているのである. (k,n)=(3,6)のとき,正三角形の内角である60°と正六角形の内角である120°が合わさって,180°となり, 3+6-2=7角形からさらに2本減って,5角形になるのである.
 正多面体で同じことをしてみよう.立方体を2つ合わせると直方体になるが,他のものではn+k-2面体になるような気がする.しかし,正四面体と正八面体と合わせると,十面体にはならないのである. では,(問題8:何面体になるか? 答:七面体)

 ヒントだけ.正八面体を半分にして,直正方形錐OABCDを考える.ピラミッドの形である.同じピラミッドO'A'B'C'D'を のように並べると,この2つのピラミッドの間の隙間に,正四面体がきれいに収まっている.  確認しよう.図で線分OO'を引いて,じっと見ると,四面体OO'BCが見える.これが正四面体になるのである(直観的には明らかだが,立体角や面角のことまで確かめるのはそれほど易しくはない).つまり,正四面体とピラミッドに,合わせると1つの面になる面があることになる.そういう面の対が,問題8では3つあることになり,4+8-2-3=7となる.                                              (三重大学教育学部)


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