Tranlator's Preface of Lifesaver in Real Analysis MyBookのホーム『実解析の助け舟』ホーム.

『実解析の助け舟』 文献



 1. Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd edition (McGraw-Hill, 1976).   [ウォルター・ルーディン『数学解析の原理』第3版(1976年)]
 本書はルーディンのカリキュラムそのものに従っている.ここにほとんどの定義と証明はルーディンによるものである.

 2. Steven R. Lay, Analysis with an Introduction to Proof, 4th edition (Prentice Hall, 2004).   [スティーヴン・R.レイ『証明の導入付きの解析学』第4版 (2004年)]
 これには最高の推薦をする.素敵な説明.あなたを論理,集合,関数へと誘う準備の章が多い.章末の演習問題を通して積極的に読解することと空白を埋めること(私はこれが好きだ)への励ましがある.
 3. Stephen Abbott, Understanding Analysis (Springer, 2010). [ステファン・アボット『解析学を理解する』 (Springer, 2010年)]
 各章には前に「議論」,後ろに「エピローグ」が付いている.本書の構成は素晴らしく,伝統的なルーディンを基にしたカリキュラムを豊かにする多くの新しい話題と例がある.
 本書のもっともすぐれた点は,それまでの読者の数学的直観が役に立たないという導入上の問題のある「なぜ実解析を学ぶのか?」という疑問に対して,動機づけをするアボットの努力である.彼は,すべての章を結びつける統一的な物語を作ることに重点をおいている.
 (もちろん,この物語や歴史的アプローチが有効なのは,読者がすでにすべての素材を知っていて,それがいったい何を意味するのか,どうやって生まれたのか,すべてがなぜか関わりあっているのか,について振り返って学ぶことに興味がある場合だけである.解析学を初めて学ぶ学生にとって,抽象的な定義を理解し厳密な証明を書くことは十分難しいことで,それすべてを読者の頭の中でまとめるというようなことは余計な負担である.)
 4. Kenneth A. Ross, Elementary Analysis: The Theory of Calculus (Springer, 2010). [ケネス・A.ロス『基礎解析学 微積分の理論』 (2010年)]
 ロスは明らかに質を優先して量をあきらめている.彼のページには詳細な例と明快な説明がある.彼の扱う素材にはいくつか穴があるし,この本には解析の1学期のコースとして不足しているところもあるのだが.数列に関して(特に数列の収束の証明と上極限を理解することに)問題を抱えている読者は,この本の第2章は必読である.
 5. Robert G. Bartle and Donald R. Sherbert, Introduction to Real Analysis, 3rd edition (Wiley, 2000). [ロバート・G.バートル,ドナルド・R.シャーバート『実解析入門』第3版(2000年)]
 この本は包括的で詳細であることを指向している.(順序はいくらか違っているが)ルーディンのほとんどを扱い,多くの不足している定理や例を補っていて,役に立つだろう. 難しい概念の説明は寄せ集め的だが,関数の導入や再吟味による証明が必要なら,一読の価値はある.
 6. Robert Wrede and Murray Spiegel, Schaum's Outline of Advanced Calculus, 3rd edition (McGraw-Hill, 2010). [ロバート・リーデ,マレイ・シュピーゲル『ショーンの高等微積分の概要』第3版 (2010年)]
 ショーンのシリーズは大規模な演習問題集であり,中には詳細な解答つきのものもある.問題を解くのはそれについて読むだけよりも良いことなので,チェックした方が良い.
 7. Burt G.Wachsmuth, Interactive Real Analysis, version 2.0.1(a) (www.mathcs.org/analysis/reals,2013). [バート・G.ワクムス『対話型実解析』]
 このウェブサイトには優れた会話型の例と証明があり,最初にそれを読んだ後,クリックすると解答を見ることができる.

[訳者による補遺]
 本書の内容は数学解析の基礎事項に過ぎない.しかし,それを軽視して先の事項に進むと,理解がだんだんに難しくなり,最後には何がわからないかもわからなくなることがある.だから,基礎事項を真に理解し,自在に扱えるようにすることを目的としているのである.
 上の参考文献の1.のルーディンの書は,1953年の初版以来,アメリカの数学解析の基礎的教科書としての定番である.ルーディンにはほかに『実解析と複素解析(Real and Complex Analysis)』(1966, 第3版1987)と『関数解析(Functional Analysis)』(1973,第2版1991)があって,解析学の研究に進むための標準的な教科書になっている.
 2.~7.はそれをいろいろな面から補うものになっていてその特徴はそれぞれに付いているので,読者が取捨選択できるようになっている.しかし,どれも日本語訳がされておらず,読者の役には立ちにくいだろう.そこで以下少し,日本語の文献を挙げて,少しだけ説明をしておくことにする.
 少しと書いたのは,それぞれに特徴のある良書と言えるものが山ほどにある中から少しという意味である. すべてを挙げるわけにもいかないし,本書を読んだ後という状況下で役に立ちそうなものを選ぶことにした. [1]の高木以外は,訳者にとって面識のある著者のものになったのは偶然である.

 [1] 高木貞治『解析概論』岩波書店(1938), 増訂版(1943), 改訂第3版(1961),定本(2010). 第3版の改訂は黒田成勝による.定本では補遺に高木函数が追加されている.
 [2] 一松信『解析学序説 上下』裳華房(1962,62),新版(1981.12, 1982.2,2008.6)
 [3] コルモゴロフ・フォミーン『函数解析の基礎』(山崎三郎訳)岩波書店(1962),第2版(1971),原著第4版は,大幅に増補されていて,その部分は柴岡泰光訳(1979)岩波書店.原著(ロシア語)は初版が1954年と1960年に,第4版は1976年に出版されている.
  英訳Elements of the Theory of Functions and Functional Analysis, Dover(1999)がこの年になって出版されているのは世界的な評価の証しである.
 [4] 溝畑茂『数学解析 上下』朝倉書店(1973)
 [5] 笠原晧司『微分積分学』サイエンス社(1974)
 [6] 杉浦光夫『解析入門I,II』東京大学出版会(1980,1985)
 [7] 杉浦光夫,清水英男,金子晃,岡本和夫『基礎数学7 解析演習』東京大学出版会(1989)
 [8] E.ハイラーG.ヴァンナー 『解析教程 上下』(蟹江幸博訳)シュプリンガー・ジャパン(1997),新装版(2006),丸善出版(2011).Analysis by Its History, by E.Hairer & G.Wanner(1995)
 [9] 蟹江幸博『微積分講義[上]微分のはなし,[下]積分と微分のはなし』日本評論社(2007, 2008)

 [7]は東大の一般教育の標準的教科書である[6]に対応する演習書である.[6]と[7]が現在での定番と言ってよいかもしれない.それを読みこなせば東大での数学の教育を受けたのに等しいと言うことができる.それが誰にでも手にとれる形で提供されているのだから幸いではある.しかし,そのように思えるような人が『ライフセーバー』のようなタイプの教科書を手にとることはないだろう.
 日本での解析の教科書の古典である[1]も,東大での講義を基にしている.著者の高木貞治は代数学,特に整数論の世界的権威で,解析の講義を担当していた坂井英太郎の退官で担当者がいないためのピンチヒッターだったらしい.自身の退官までの4年間講義をした.折しも『岩波講座数学』が刊行され始め,高木が解析概論を担当することになった.世界的にはフランスのグルサの{\it Cours d'Analyse}(解析教程)が権威ある教科書になっていて,日本人も高度の数学を学ぶ意志を持った人の多くは原書ないし英訳で読んだものである.その日本語翻訳原稿を岩波書店に持ち込んだ人があったようで,高木は「我々の手で適切な解析の書物を作り上げるときにきている」という感想を漏らしていたという.
 代数学者が書いたことで,むしろ細部にこだわるより,全体を見通せ,学習意欲を高める名著になった.第2次世界大戦前の出版でもあり,高木の死後まもなく増訂版が出版され,戦後に教育を受けた人は大半この版で学んだだろう. 2010年刊の底本には補遺に高木関数が追加されただけである.至る所微分不可能な連続関数の存在はワイエルシュトラスによって知られていたが,構成が面倒なものであり,高木が分かりやすい新しい構成法を与えたというものである.しかし,その構成法のより詳しい説明が[8]にあるので,[1]がわかりにくいと感じた人は一読を薦める.
 [1]が出版されてから時が経ち,解析の研究も進み,多くの数学やその応用の範囲も広くなり,基礎となる教科書に盛るべき内容も増え,述べ方を工夫する必要が出てきた. 訳者が大学に入学する少し前に出版された[2]は何でも書いてあるということが評判の本であり,[1]に物足らない人を惹きつけたが,結局[2]は辞書のように使う人が多かった.
 [2]が出版され,[1]の呪縛から解き放たれたという感もあってか, 優れた微積分や解析の教科書が書かれるようになった. 同じ年に出版された[3]は新しい成果を取り込み.さらなる発展への基礎を与えるものとして世界的な数学者が書いたものである.この翻訳があったので,英語での定番のルーディンの教科書が日本語に翻訳されなかったのかもしれない.訳者も大学1年のときに仲間と一緒に読み始めた.そのおかげでか,よく言われる大学の数学の学習障壁をあまり感じることはなかった.
 日本人による新しい感覚の本格的な教科書が出始め,京大関係者の書いた[4]と[5]が続く.著者の二人はともに訳者の恩師であるが,これらの本の内容を知ったのは,大学に勤めて,微積分の講義をするようになってからである. [4]は偏微分方程式の日本における第一人者が書いただけあって,解析学者が自分で気にするところが詳しい.本の厚さもあって,初学者は圧倒されてしまうかもしれない. [5]は惹句に「理論構成において厳密に,叙述において平明に,感覚においてモダンに」とあるように,読み進めていくと,明るさを感じるのが不思議である.学ぶときの苦しさが感じられない.それでも,細かく難しいところを省いたからというわけではなく,この本でしか知り得なかったことも少なくない.初学者に必要なことはすべて書いてあると言ってよい.
 最後に,東大で長い間微積分が教えられてきた成果ともいうべき[6]と[7]が現れて,日本での本格的な微積分の教科書の完成形を見たようである.今では[6]も辞書として使うという人も多いかもしれないが,詳しさは著者の博識さが自然ににじみ出ているということであり,普通に読んでいくことができる教科書である.
 [8]は20世紀を代表する微積分の教科書ということができる.著者たちはジュネーヴにいて,微積分の創造者たちのベルヌーイやオイラーの生の原稿が勤めている大学に保存されているという稀有な環境の中で書かれた,微積分の誕生と発展を現場で見るような臨場感を味わえる教科書になっている.
 この後にも様々な微積分の教科書が書かれてきて,それぞれに特徴があり味わいのあるものも多いが,定番を目指すというようなものは見かけない.訳者の書いた[9]も紙数の制限があったこともあって,何でも書いてあるというようなものは目指せなかったし,目指さなかった.日本人にとってあまりなじみのない興味あるエピソードを集中的に取り上げることで,読者の関心を引くことを目指した.読み物としても面白く,それでいて一応以上の知識が身に付くものになっている(と思っている).






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