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少子化で教育はどうなる?



数学セミナー,1999年1月号



01蟹江 今年の教員採用試験の結果が出揃ったようだね.どの県を見
ても,今年はまた一段と厳しさも極端だね.不景気なときほど人気
がある公務員というのも昔話で,むしろ世の中一般より以上に就職
難かも知れない.
 教員の需給関係は子どもの数と関係してるから,少子化傾向の今,
採用が少なくなること自体当たり前ではある.比例して教員数を少
なくすると支障が起きることもあって,1学級の人数を40人に減
らしてあるのだが,それをはるかに上まわる児童数の減少だからね.
しかし,児童数に見合った採用減になっているのかな.
中馬 岐阜県の場合,平成7年度ですが,学級数が小学校で5165,
中学校で240という数でした.これに対して,小学校で60人,中
学校で28人しか採用されませんでした.学級数の減少以上に,採
用が少ないように感じます.
黒木 現場の先生方と話をしても,少子化の影響は,教員採用数の
減少にとどまらずいろんな問題に波及しているようですね.まず,
採用数の激減から,教員の年齢構成がきわめて不均衡になっている.
新採用の先生がくることが稀なので,学校によっては20代がまっ
たくいないとか,校長・教頭以外は30代後半から40代初めだけ
という学校も増えています.
 部活動でも,部員が集まらず休部に追い込まれたり,これまでは
学級の中に埋没していたような子どもの問題が表面化したりして,
指導法そのものを変えなければならないこともあるようです.また,
学生の立場からは,採用がかなり狭き門であるために,3年生から
その対策に追われて,大学の勉強に身が入らない.教育学部には限
りませんがね.
蟹江 均等な年齢構成になっていないという問題は深刻だね.子供
への対し方は慣れないといけないし,慣れるだけでもいけないし,
先輩教師の指導というか受け継ぎがスムースである必要がある.大
学で教えることのできるのは単なる基礎能力だけだからね.教育委
員会が人事面の将来計画を立てていたとは見えないね.平成10年
度は東京の高校での教師の内定は0と聞いたし,採用が数名という
県は結構あるようで,そういうことが何年も続いている県もある.
中馬 若い先生がいないと,学校はなぜだか活気がなくて,子ども
たちも元気がでなかったりするんですね.学生に聞いてみても,小
学校や中学校での先生の影響が結構大きくて,若い先生との出会い
が進路に影響したという学生もいます.年齢構成というのは,その
点からも重要です.
黒木 部活の問題ですが,すべての種目は必要ではないですね.週
休2日制になると,部活が地域の活動になるという話もあるようで
すが,重心を地域に移し,学校で夜遅くまでやるような馬鹿なこと
がなくなるのはいいことです.
 少子化と週休2日制をむしろチャンスと考え,校名を賭けたスポ
ーツ大会はやめて,文化的なものへと変えていった方がいいと思い
ます.学校の部活への縛り付けは,エネルギーを持て余している若
者を放っておくとろくなことはしない,という発想だと聞いていま
す.大学生としての目的意識が希薄なこともあってか,習慣として
の部活がないと,その日何をしていいかわからないといった学生さ
え目にします.
 ただ,部活動的なものを地域に任せるにあたっては,子どもの発
達をよく知っている指導者の養成が必要ですね.私も地域から頼ま
れて,少年ソフトボールの監督を10数年やっていましたし,公式
審判の資格を持っていて,数年前までは高校生や大人のソフトの公
式試合の審判にかり出されることがあり,地域の指導者も数多く知
っていますが,体験のみに基づいた指導で,恐いなと思うことが多
々ありました.福井大学も教育学部が地域教育学部に変わることに
なって,教師以外に地域の文化やスポーツの指導者養成も考えます.
将来的には,スポーツ部などを学校から切り離していけたらいいで
すね.
蟹江 黒木さんの経験に基づいた提案というわけだけど,そういう
力学は働かない気がするな.家庭教育,ひいては地域での教育と学
校教育の問題なんだよね。
 サッカーのJリーグもサッカーだけじゃなく,総合的に地域教育
をするという理念も持ってて,密かに応援してるんだ.最近あった
チームの身売り問題にしても,そういう理想と経済原理とが衝突し
てるということだよね.学校教育も経済原理の中に放り込むような
政策が...あ,また脱線だ.
中馬 もう一つは,採用が厳しくなってきて,その勉強だけに追わ
れているという問題ですね.大学によっては卒業研究がないところ
まであります.そういう大学の卒業生を数人知っていますが,数学
的な力量はかなりひどいものがあります.まがりなりにも卒業ゼミ
で絞られるのとそうでないのとでは全然違うと思いますね.3年生
まではチャランポランでも,ゼミで鍛えられると変わりますからね.
採用試験では良い点数が取れるが,教科や教職の力量がないといっ
たことが起きていきます.しかも,同僚の人数が少ないとなれば,
自分が相対化できない.自分の非力さが自覚できずに潰れるか,自
信過剰になるか.後者になると,子どもには悲劇ですね.
蟹江 狭き門になれば,採用試験に合格したのは,とても優秀だっ
たと思われるよね.大学入試の偏差値みたいなもんだ.実態は全然
違うけど,知っている人しか知らない.大学でできない方が合格す
ることも多い.だから,教科教育学者の中には,「教師には数学は
要らない」とか,「数学を知っていると邪魔になる」とか言うのも
出てくる.採用試験は些末な事項の暗記試験だから,大学での内容
をまったく反映してない.大学で教師になるための勉強が役に立た
ないどころか,かえって邪魔になるわけだ.大学を卒業するのに,
あまり努力する必要がないという現状の方も問題なんだが.
 そう言えば,大学審が,大学の教育をもっとちゃんとして,卒業
するのを難しくしろなんて言ってるようだけど,本気でやってくれ
といいたい.大学の教師ならみんなそう思ってて,主張もしてきた
んだけど,何のせいでかこうなっている.だから,何か制度的な枠
を作り直すと言って欲しいね.
黒木 落第を増やすには,大学間を自由に移れるという保証と奨学
金の心配がないという前提が必要だろうね.ところで,採用の問題
に戻るが,そのシステムを変えたらどうだろうか.教育学部は目的
養成だから,卒業後は無試験で全員を臨時教員(インターン)に登
録し,数か月間どこかで教員をした後に,本採用の受験資格が得ら
れることにする.臨時教員の配置は,県と大学との協議で,大学の
成績に応じて,各学校がそのリストから選ぶか,大学側が推薦する
ことにする.大学の推薦の当否を現場が判断することにしてもいい
ですが,ともかく,大学での評価が生きるようにする.
 今のような教員採用のシステムは,一般の就職と同じレベルで,
プロ意識や姿勢を測るという点では,あまりにも弱いと思う.
 新制大学も50年になり,教員養成大学の状況もずいぶんと変わ
って来ている今日では,これまでのような教員養成系の学部以外で
も教員免許を取得して教員になれるという「開放制」はもう止める
べきだと思う.高校進学率97%の時代には,教師の専門性はやは
り無視できない.教員になりたい者は原則的に教育学部の大学院の
教職コースに入って,単位取得の後でなければ,教員への採用登録
ができないものとしたほうがいい.少子化への対応にはならないが,
教員の質をより高める効果はあると思う.
中馬 少子化によって、いろんな問題を考えなければならなくなっ
たわけで、今行われている教育学部の改革については不本意ですが、
計画養成と言いながら、その需給関係の対応を怠ってきた点では大
学側にもその責任があると思いますね。
蟹江少子化という現象で捉えるのじゃなく、教育を巡る問題を洗い
直す時期に来ているということなのかな。