| 中馬 教育課程審議会の「審議のまとめ」が6月の下旬に出て、2
| 002年から始まる学習指導要領の内容が固まったようですが,ず
| いぶん変わりましたね.
| 蟹江 「審議のまとめ」の全文が文部省のホームページに掲載され
| てるけど,読む気にならないや。新聞やテレビの解説はニュース的
| においしいところだけのつまみ食いの感じがするし,黒木さん,読
| んでるのなら,まとめてくれませんか。
| 黒木 平成8年8月の文部省からの諮問を受けて,この6月に教育
| 課程審議会の「審議のまとめ」が出たわけですが,これは平成8年
| 7月の中央教育審議会の「21世紀を展望した我が国の教育の在り
| 方」という答申が下敷きです.「ゆとり」のなかでの「生きる力」
| を育むために,学校週五日制の完全実施と教育内容の厳選というの
| が建て前のようです。
| 中馬 そう言えば,以前に,「ゆとりの時間」を時間割に組み入れ
| たために,強制的に「ゆとり」を持つことになって,「ゆとり」が
| ゆとりでなくなり,結局は「ゆとり」がなくなるという結末に終わ
| ったことがありましたね。言葉遊びをするのもいい加減にして欲し
| いと思います。「ゆとり」とか「生きる力」とかいう具体的でない
| 目標を掲げられても困るんです。現場は混乱するばかりです.
| 蟹江 「豊か」ではあっても「ゆとり」のない社会だということが
| 問題なのであって,児童・生徒の社会環境を変えないまま,学校に
| おいてだけ「ゆとり」を与えようとしても無理な相談でしょう.し
| かもそれを雑用に追いまくられて,授業の準備すら満足に時間をか
| けられない「ゆとり」のない教師に実現させようとしたってね.
| 「生きる力」が「ゆとり」の中でしか培われないような言い方も,
| 問題点をひとからげに実現不可能な「ゆとり」という仮構の中に追
| いやっていて,中教審の委員が現実に子供たちと向き合う姿勢を持
| っていないことの顕れだということなのかな.
| ハードがあってもソフトのない日本の社会,校舎は立派になって
| も荒れる学校.入れ物や制度は作るが,それを運用すべき教師には
| 時間的にも経済的にもゆとりを与えようとしない.....
| あ,また脱線しそうだ.黒木さん,続きを頼みます.
| 黒木 今回の具体的視点は次の4点だそうです。
| 一つ目は,豊かな人間性や社会性の育成と日本人としての自覚を
| 養う教育。二つ目は,自ら学び,自らが考える力の育成。三つ目は,
| ゆとりある教育活動と基礎・基本の定着と個性を生かす教育。四つ
| 目は,特色ある学校作りというということで,授業時間数や単位時
| 間の弾力化などの教育課程基準の大綱化。
| 一つ目に関して言えば、各学校段階の役割を述べている部分で、
| 「国家・社会の一員として・・・」というフレーズが目につきます。
| そのためか,小学校音楽の改善すべき点の一つに,国歌「君が代」
| の指導のいっそうの充実をあげ,小学校のいずれの学年においても
| 国歌の指導を明確にせよとまで言っています。社会性の育成という
| 耳障りのいい衣の下から,かなり露骨に本音が見え隠れしています
| ね。この春の埼玉の高校の入学式の問題といい,社会科教科書の検
| 定といい,一時的なことのようには思えません。
| 蟹江 サッカーのワールドカップなんかを見ていると,普段「国家」
| という言葉の嫌いな人でもニッポン・ニッポンを連呼してたりする
| よね.一般にナショナリズムはことが起きれば昂じるもので,善し
| 悪しは別にしてある意味で自然なもの。しかし,だからこそ,教育
| でナショナリズムを鼓吹するというのは感心しないですね.
| 中馬 ところで,今度の改訂の目玉になっている「総合学習」とい
| うのは,どんな文脈からきているわけですか?
| 黒木 それは,二つ目ですね。知識と生活を結びつけることが大切
| だと言っていて,それを実現する方法として「総合学習」というの
| を提起して,合科的なものをやれというわけです。
| 中馬 小学校では,生活科の延長になるのですか。
| 黒木 似ていますね。ただ,生活科の場合は,理科と社会科を潰し
| て1年生で102時間,2年生で105時間のものを作りましたが,今回
| は,すべての教科から時間を削減して,3・4年生で105時間,5
| ・6年生は110時間を捻出しています。完全週休二日制になり,全
| 体のカリキュラムが削減される中で,総合学習が新しく導入される
| わけです。
| 蟹江 小学校の3年では,国語が235時間,算数が150時間だという
| のに,総合学習が105時間とはいかにも多いね。国語は6年では175
| 時間しかないのに.基礎的な能力を積み上げた上でないと,知識の
| 総合化などできるわけがない。まとめの文章で嫌というほど繰り返
| されている「基礎・基本」はどこに行ったのか,という印象だね。
| 「今の教育は知識の詰め込み教育だ」という非難をかわすためと,
| 時間を削減する大前提の下,社会に役立つ人材育成というスローガ
| ンとの帳尻合わせで出て来たのだろうね。
| 学んで思わないのは確かに罔(くら)いけれど,思って学ばない殆
| (あや)うさの方が,基礎的な教育では問題なのだと思うんだけどな。
| 中馬 論語ですか。昔は政治家の必読書だったものですが。
| ところで,総合学習の狙いや位置づけはどういうことになってい
| るのでしょうか。岐阜の研修校でもこの4月から総合学習の実験を
| 始めています。学年全体でいくつかのグループを作りその中で自主
| 的に活動させているようですが,教師も配置しないわけにはいかず,
| ゆとりどころか教師の負担は増えるばかりのようです。評価をしな
| いからといって教師が必要なくなるわけではありません。
| 私の研究室には教員留学生が来ていまして,学校見学に行くこと
| がありますが,その場で子供たちにモンゴルでの授業の様子を話す
| ように頼まれ,それを総合学習の国際理解の分に当てたんだそうで
| す。試行錯誤の試みとは言えますが,小手先の感じがしますね。
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