01 | 中馬 数学教育タスク・フォースご苦労様でした。前回の名古屋大
| 学での会と比較すると高校の先生の参加が多かったですね。ところ
| で,タスク・フォースについて知らない方もおられると思うので,
| 少し説明してください。
| 蟹江 これまでは数学者の有志と高校の先生との間で数学教育の問
| 題点を話し合う会を,日本数学会の大会の最後の日か翌日に,開催
| 地で開いてきました。公開にしていなかったので知らない人も多い
| でしょうね。最初は去年の秋の東大の学会のときでした。京大の上
| 野健爾氏と東大の岡本和夫氏の呼び掛けで,2日続きの集会が開か
| れ,「高校・大学の数学教育」を巡って,熱の籠った議論がなされ
| ました.2回目は今年の春に名古屋でありましたが,議論の内容は
| 1回目の繰り返しのようなものが多くなりました。そこで,もう少
| し具体的な行動を伴った会にしたいということで,会の名称もTF
| (タスク・フォース)になりました。
| 中馬TFというのはどういう意味ですか? 辞書で引けば米軍の
| 機動部隊とか英国の特別捜査隊とかが載っていますが。
| 蟹江 まあ,そういう意味です.臨機応変に必要なことをただちに
| 行うというニュアンスかな.この名前は横浜国大の根上生也氏の提
| 案でした.秋の大阪の学会の際の活動について議論したのは,ちょ
| うど新指導要領の中間まとめの出た頃で,皆怒ってたんでね,「こ
| の指導要領で数学教育は可能か」という公開討論にしようというこ
| とになったんです。阪大はアクセスが不便なので、といって大阪の
| 目抜きの場所に会場を借りる金もなし,いっそ京大がいいだろうと
| いうことになったわけです.
| やってみての感想だけど、高校のカリキュラムについては、前回
| コア・オプション制の導入という枠組みの大幅な変更があって不満
| が出てたけど,その枠組み自体を変えようという機運が盛り上がっ
| ているようにも今は見えない。かといって,総合的な学習や数学基
| 礎などの新しい点についても認識が共通にならなくて、焦点がボ
| ケて,盛り上がりに欠けるところはあったね。
| 黒木 むしろ,今の指導要領を実施してきた高校の側から実際上の
| 問題点を報告してもらって,大学側としては,そのカリキュラムで
| 入学してきた1〜2回生の様子を報告するという方が良かったかな
| と思いました。私は,新指導要領に関する基調報告をしたわけだけ
| ど,このような制度は誰に責任を負っているのだろうかと思います
| ね。というのも,今回の教育課程審議会の基調の「ゆとり」とか
| 「生きる力」は,初めて言い出したことではないし,詰め込み型の
| 授業が子どもを圧迫しているという指摘も昔からあるわけです。答
| 申では,子供達のおかれた状況が,その都度,指摘は的確にされな
| がら,10年たっても,20年たっても何も変わらない。いや,そ
| れどころか,子供達の問題行動はどんどん広がっています。どう考
| えても,問題点の原因追求と改善への手だてが本格的になされてい
| るとは考えにくい。その意味では,今の制度は無駄ですね。
| 中馬 いや,むしろマイナス面の方が大きいのではないでしょうか。
| 指導要領が改訂されれば,現場では各教科がその対応に追われる。
| 小学校・中学校を通して9年間だから,問題が噴出する頃には,次
| の指導要領の1サイクルが始まる。落ちついて指導の問題点や子ど
| もの問題行動を追求している暇がない。だから,問題点は,後へ後へ
| と送られているに過ぎないわけで,利子がついて膨れ上がる。数学
| などはそれが顕著ですよ。
| 蟹江 それと,教えられる教科間の比重という問題もあるね。今で
| も「読み,書き,計算」の3R'sが基本で,変わるはずもないと思っ
| ているのですが,どの教科も平等に教えなければならないという主
| 張の,教科エゴが出てくる。その平等主義のためか,今回の指導要
| 領の改訂では,中学校数学の時間が削られたが,中学校の基礎・基本
| はまさにそれから先の数学の基礎となる大事な部分で,大問題なん
| だよね。
| 黒木 今の子どもは高校に来る段階で,かなり選別されてしまって
| いるわけです。普通科高校の中でも,授業もまともに成り立たない
| 高校から,大学に進学する生徒が中心の高校までの序列があり,職
| 業科高校でも序列がある。そして,その序列の大きな一翼を中学校
| の数学が握っている.中学校は義務教育としての,共通の基礎・基
| 本が充分につけられることを目指すべきだが,実状はそうなってな
| い.高校に来れば,1年から選択制になっていて,もはや同じ内容
| での授業すら用意されてないわけで,格差はますます拡大する。中
| 学校数学が,国民的教養の水準ということになるが,その水準すら,
| 一様でなくなりますね。
| 中馬 いま,高校進学率は97%です。その約半分が大学に進学し,
| 残りの半分は大学に進学しないから,今のような数学はいらないと
| いう意味で,前回の改訂から,コア・オプション方式が出てきてい
| るような気がするんですね。その評価はまだ出ていないが,今回は,
| 新しく「数学基礎」が登場してきた。これが,今回のTFではかな
| り議論になりましたね。昔の指導要領の「一般数学」を思い出しま
| す。この教科書は,私が習っていた頃,ほとんど使われなかったと
| 思います。いま,このような科目を導入するというのは数学離れが
| 多くなっていることの現れですね。大学に進学する者でも,高等数
| 学なんかまるで必要としない大学の学科もかなりあるはずです。そ
| のような生徒は数学を覗くだけでもいいと思います。数学の先生方
| は数学嫌いの生徒・学生にも数学の必要性とか面白さを真剣に教え
| てあげるように,しっかりと教材開発をすべきと思います。
| 黒木 そこなんだよね。高校の先生方は,良い悪いは別にして,数学
| へのノスタルジーが強いからね。大阪の高校の先生の研究会では,
| 自分達流の指導要領を作り,中でも「数学基礎」の内容はずいぶ
| ん検討されて,「数学T」と平行して,「基礎」を盛るというこ
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