Preface to Analysis by its History MyBookのホーム『解析教程』.

『解析教程』 序文



伝統的な無味乾燥な数学の教科書から離れて......      
M.クライン(1972)のペーパーバック版の序文から)  

この理由からも、膨大な数の図を描く手間を惜しまなかった。 
E.ブリースコルンクネレー『平面代数曲線』iiページ)
......私の書き方が普通の教科書の書き方と特に異なっている点
を再度あげて強調しておきたい。              

1. 抽象的な考察を図で説明する。             
2. 差分法や補間法などの隣接分野との関係を強調して...... 
3. 歴史的な経緯を強調する。               
これから教師になろうとする人は、これらのことをきちんと考慮
すべきである。このことは、私には極めて重要なことだと思われ
る。                           
(F.クライン(1908)『高い立場から見た初等数学』III.3.3)



 厳密な解析学入門の講義は、伝統的には(多かれ少なかれ)次のような順序で行われています。
集合  極限
==>==> 導関数 ==> 積分
写像 連続関数
 しかしながら、歴史的にはこれとはまったく反対の順序で、つまり

カントール
1875
コーシー 1821ニュートン 1665アルキメデス
==>==>==>ケプラー 1615
デデキント ワイエルシュトラスライプニッツ 1675フェルマー 1638

の順序で発展してきたのです。この本では

第I章無限の解析入門
第II章微積分法
第III章古典解析の基礎
第IV章多変数の微積分

という章立てで歴史の順序を再現してみたいと考えました。 まず第I章ではカルダーノから始め、デカルトニュートンと進み、オイラーの有名な『無限解析入門』1の話をします。 次いで第II章では、(音楽家の言う)「古楽器2」を使った17,18世紀の微積分法を述べています。 19 世紀になって、コーシーワイエルシュトラスペアノが1変数や多変数関数に対して数学的に厳密なとり扱いを始めることになりますが、それが第III,IV章の主題になっています。
 この本は2人の著者が長い期間教鞭をとってきた成果と言うべきものです。 G.ワナーは1968年に、初めてインスブルック大学で解析学の講義をしましたが、E.ハイラーはそのとき1年次の学生として聴講していたのです。 それ以来我々はいくつかの大学で、またドイツ語やフランス語でもこの種の 講義をし、沢山の本や講義スタイルに影響を受けてきました。 この本は最初ジュネーブ大学の学生のためにフランス語でまとめられたものですが、 毎年改訂・修正を繰り返し、英語に翻訳し、また改訂をし、 そして同僚であるジョン・スタイニヒの貴重な助けがあって 修正をしたものです。 彼は大変沢山の間違いを直してくれたので、彼がいなければどうなっていたか考えることもできないほどです。

番号づけ:各章はいくつかの節に分かれ、公式、定理、図、 演習問題は各節で連続した番号がついています。 その際、節の番号はつけたが章の番号はつけませんでした。 だからたとえば、II.6節の7番目の式は(6.7)というように番号がついています。 ただし、別の章でこの式を引用するときは(II.6.7)というようにしてあります。
文献の引用の仕方:たとえば「オイラー(1737)」とか 「(オイラー 1737)」とか書いてあったら、1737年にオイラーが出版した テキストを引用しているということであって、そのテキストの詳細については巻末の文献表にあげてあります。 ときにはたとえば「(オイラー 1737、25ページ)」のようにもっと細かく 指定することがあります。 オリジナルの文献を調べてパイオニア達のエレガントで情熱に溢れているテキストを味わいたいと思う読者の助けになればということから、このようにしました。 文献表に対応する項目がない場合には、括弧を省いたり、たとえば 「(1580年に)」という書き方をすることもあります。
引用文:本書では文献から多くの引用をしています。 テキストの中の引用文は普通英語に翻訳してあり、英語でないオリジナルは付録にあげてあります3。 引用文の出典を文献表にあげていないときには、上に引用したブリースコルンとクネレーの本のように直接本のタイトルをあげておきます。
謝辞:本書はジュネーヴ大学のサン・ワークステーション上で シュプリンガー・フェアラーク ニューヨーク支社のマクロを使って plain \TeX で処理したものです。 わが大学の「サービス・インフォーメーション」のミスター・サンである J.M.ナエフさんが手伝ってくれたことを有り難く思っています。 図は昔の本からの複製(ジュネーヴ大学図書館のJ.M.メイランさんとA.ペルショウさんが写真を撮ってくれたもの)か、フォートランで計算してポストスクリプト・ファイルの形で保存したものです。 最終的にはジュネーヴ大学の心理学部の1200dpiのレーザー・プリンタで印刷しました4。 また我々は、数学部の図書館のスタッフや同僚達、とりわけ R.ブーリシュ、 P.ドイフハード、Ch.ルービク、R.メルツ、A.オスターマン、J.-Cl.ポント、 J.M.サン・サーナの皆さんに貴重なコメントやヒントを出して下さったことに感謝します。 最後になりますが最小では決してない感謝をイナ・リンデマン博士に捧げます。 シュプリンガー・フェアラーク ニューヨーク支社を代表して、彼女は援助、適切な注意、心地よい協同作業をしてくれました。


1[訳註] ラテン語原タイトル: Introductio. 以降本文中のラテン語の語句はすべて日本語に翻訳し、対応するラテン語を脚注の形に与えることにします。しかし、このIntroductioは余りに頻出するので、単に『入門』とあったら、この本のタイトルで、ラテン語で書いてあるものと思ってください。
2period instrumentの訳。著者はクラシック音楽にも造詣が深く、近年の音楽運動を知らないと理解できない言葉です。クラシック音楽はその時代の楽器のために作られたのだから、現代の楽器でなく作曲された時代の楽器で演奏すべきだというのです。ヴィヴァルディの時代のヴァイオリンやヘンデルの時代のトランペットの現在の楽器との違いや、音の高さすらが違うなど、著者はその蘊蓄を語ってくれました。このことを踏まえて、ここではライプニッツやオイラーの使った(時代の)「道具=楽器」で微積分をしようということなのです。
3[訳註] 日本語訳である本書では、すべて日本語に翻訳してあります。 オリジナルの香気はオリジナルで味わっていただくことにして、オリジナルを手に入れることが可能なデータは残して、この付録は割愛しました。 また、著者達が伝えたい形を尊重する立場に立って、引用された英語の文章から翻訳することにしました。 引用文献がすでに日本語に翻訳されている場合もありますが、その訳文は参考にするに止め、本書の精神に添って翻訳するようにしました。
4[訳註] 勿論これは原書のことです。本書は、訳者が LaTeX で原稿を作ったものを、Springer東京社の標準の TeX マクロで作成したものです。
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