Preface to Geometry by its History MyBookのホーム『幾何教程』.

『幾何教程』 序文



αγεωμετρητος μηδεις εισιτω              
[アゲオメトレートス メーデイス エイシトー]     
(言葉通りには「幾何学者でないものは入るな」.    
 紀元前387年,プラトンのアカデミアの入り口に掲げられた
銘文(恐らくは伝説に過ぎない)とコペルニクス『天球の回
転について(De revolutionibus orbium coelestium)』
(1543) の口絵の銘)                 



 幾何学は,少なくともプラトンの時代からそういう名前だった幾何学は,数学の最も古い部門である. 多くの美しい結果とエレガントなアイデアと驚嘆するような関連性を含んでおり,多くの偉大な思想家たちが何世紀にもわたって貢献してきた. この中にはタレスピュタゴラスユークリッドアポロニウスアルキメデスプトレマイオスパッポス,アラブ人たち,レギオモンタヌスコペルニクスヴィエートケプラーデカルトニュートンベルヌーイ一族,オイラーモンジュポンスレシュタイナーがいる. 本書では,ニールス・エンリク・アーベルの有名な言葉「わたしは巨匠たちから学んだのであって,その弟子たちからではない」に従って,これらの巨匠たちのテキストから,役に立つと判断するだけ密接に,そして大体は歴史的順序に沿って幾何学を学ぶことにする. これが本書のタイトルで“by Its History”とした理由であり1,数学の完全な歴史書を目指すものではない2
 幾何学は科学の黎明期に生まれ,後に四科よんか(quadrivium)の一部として自由七科(septem artes liberales)の1つとなった. 本書では,計測(μετρεω,メトレオー)の実際的な問題に動機づけられた幾何学の起源から始まって,次にギリシャ哲学者たちによる抽象的な厳密科学への発展を,そして後のギリシャとアラブの時期のますます洗練された問題の豊かな時期までを述べる. それから本書の第II部では,代数や線形代数の方法の勝利と,無限のプロセスの扱い方が益々大胆になっていくことを述べ,そしてほかのすべての科学の分野が幾何学からいかにして生れ出たかを見ていく.代数学,解析学,力学(特に天体力学)という分野である. だから,本書が,特に教師になろうとする学生たちのために,高等幾何学の研究だけでなく,ほかの分野の科学の研究への良い入門になることを願っている.
 しかしながら,代数的方法の急速な成功のために,総合幾何学は大学教育におけるその位置をゆっくりと失っていった.そうした展開をすでに3世紀以上前にニュートンが嘆いていたのである.(以下は,ニュートンの『級数と流率の方法の論説』(1671),33ページの最初の文章).

 「古代の総合的な方法をほとんど完全に無視し,現在ほ
とんどの部分を解析学の開墾に専念している大半の幾何
学者を見るにつけ,...学習者の満足のために,以下の
短い論文を書き上げることは,悪くないと思えた...」  

  20世紀の間に加速する進展(コクセター『幾何入門』(1961),ivページ)

 「この3,40年,ほとんどのアメリカ人は幾何学に何がし
か興味を失ってきた.本書は,悲しくも無視されてきたテ
ーマを甦よみがえらすための試みからなっている.」   

 大学で敬意を持たれないものは,1世代の後には,高校からも消えてしまう. A.コンヌ(Newsletter of the EMS, 2008年3月号,32ページ)を引用しよう.

「非常に若い人たちに数学の練習問題を,とくに幾何学の
演習問題をするように,絶対に訓練しなければいけない.
これは非常に良い訓練なのだ.学校で,子供たちがレシピ
を,レシピだけを教えられ,考えることを奨励されていない
ことを見て,恐ろしいと思った.私が学校に通ったとき幾何
[...]の,問題を与えられたことを覚えている.それらを解く
のには大変な苦労をした.それは幼児用の幾何ではなか
った.[...]もうそれをしないというのは恥ずべきことである.」


われわれは,多くのイラストや図,演習問題,文献表を作ることによって,主に科学の(初歩の)学生と教師(全経歴を通して)にとって,興味深く楽しむことのできる本を作るためにあらゆる努力を払った.コペルニクスが『天球の回転について』(1543)で言っているように.

Igitur eme, lege, fruere [それゆえ[本書を]買い,読み,楽しめ.]


  謝辞. 多くの人々に,その助力に対し感謝するのは義務でもあり,喜びでもある. 初めにエルンスト・ハイラーとマルティン・ハイラー,ジュネーヴ大学の助手のP.ヘンリー,W.ピーチ,A.ミシテッリ,C.エクスターマン,図書館司書のA.-S.クリッパ,B.デュデズ,T.デュボアに感謝する. 数学と科学の歴史に専門家である J.-C.ポントとの長い討論は最初の2つの章を作り直す助けとなった. 同僚でもあり友人でもあるJ.キャッシュ,B.ギシン,H.ハードリンガー,C.リュービヒは本書を通読し多くの示唆を与えてくれた. さらに,われわれの妻である,バーバラとミリアムにも感謝する.
しかし,4度も(!!)本書を通読し,数千もの修正と文法上の改善を示唆してくれたJ.シュタイニヒには特に感謝する. 彼は間違いと杜撰ずさんな議論を指摘し,また多くの引用文やより良い証明を教えてくれた. そして,もし``eme, lege, fruere''が本当に正当化されるのなら,それも彼の功績である.


インスブルックとジュネーヴにて       アレクサンダー・オスターマン
2011年12月                ゲルハルト・ヴァンナー


1[訳註]原著のタイトルはGeometry by Its Historyであるが,ヴァンナーの前著Analysis by Its Historyを『解析教程』という表題で翻訳したため,本書も『幾何教程』という表題にしたもの.
2ミシェル・シャールの『歴史的概観』(Apercu historique)は800ページで重さは5ポンドもある.

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